七式ドロップス

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ファンクショナル(リレーショナル)プレーを育成に組み込むことで変わるもの

21−22シーズンのレアル・マドリー躍進の後、『ファンクショナル(リレーショナル)プレー』という言葉をWeb上でよく目にするようになった。

『ポジショナル・プレー』という馴染んだ言葉とは別の概念の登場で、あたふたした方も多いのではないかと。僕も、そんなひとり。

この概念のおかげで戦術的に考えることが確実に増えた一方で、如何せん僕の中で咀嚼し吸収するための知識量が足りないことこの上なし。とほほ。

そこで、ファンクショナル・プレーの実践編を紹介する本として登場した『モダンサッカー3.0』の力を借りることに。

ファンクショナル・プレー、本書でいうモダンサッカー3.0は、サッキのミランやペップのバルセロナで見せたラインやポジションでスペースを定義する過去の概念、つまり『単純な幾何学』ではなく、自由かつ即興的な連携で目の前の状況を解決していく『関係性の幾何学』という新しい概念のもとに行われるプレー、と語っている。

・・・何それうまいの?

と思った方は、冒頭に書いたように21−22シーズンのアンチェロッティ率いるレアル・マドリーを想像してくれたらとりあえず良いらしい。ピッチ上のことは選手中心に判断し行動していく、選手主導のサッカーを。

とはいえ、アンチェロッティは嫌や!という方もいると思うので、支持者もそうでない方にも僕が説明できるよう、次代に向けて必要と思われる要素を僕なりに抽出して書き出してみる。

  • チーム力の総和の最大化は、選手が持つ要素の連携性の向上による
  • 局所的な課題の解決は、チーム全体で選手の関係性から導く
  • ボールの位置に応じた振る舞いをチーム全体で共有する
  • 練習ではミスを自身で認識させ、様々な状況下で仲間の意図や感情の共有により、無意識下で反応するよう解決を図る

つまり、チームとしては『様々な状況で即興的なプレーを連続的に反射でこなしていく関係の構築』を、個人としては『チーム力の総和を高められる連携性』が必要な様子。

その上で、これを育成現場に対応させるとなると求められる点は以下のとおりではないかと。

  • 「うまくさせる」ではなく「うまくなる」環境づくりの構築
  • 子供たち自身が自由かつ即興的な連携のもと、目の前の課題を解決
  • プレーのルールはサッカーの原則的なもの以外設けず
  • 多様な環境下の小試合を多数経験させる

おそらく、ファンクショナル・プレーを意識せずとも似たような環境や条件で育成してる指導者は、少なからずいそうな気がしますね。

とはいえ、従来の枠組とは違う思想が根底にあり、チーム力の総和が連携性で左右されることを踏まえれば、戦術やメソッドだけでなく個の評価基準も大きく変化するはず。

従来のフィジカルやテクニックといった分かりやすく目に見えるものや個人戦術に加え、チームの課題を周囲との連携性で解決できる能力という評価基準が加わるのだから、指導者は個を見抜く力をバージョンアップしないといけない。

行く末はトレセンの選考も変化するのかな。いや、変化しなきゃいけないんだろうな。

 

(参考)育成要素の詳細について、モダンサッカー3.0から原文を部分的に引用。

  • 現在のサッカーは、ひとつのチームが90分のなかで異なる顔、異なるスタイル、異なる戦術を使い分けて、幾つもの「小さな試合」を演じている。その文脈のもとでは、チームは自由かつ即興的に連携しながら、目の前の状況を選手自身が解決していく。あらかじめ決められた戦術の遂行は求められていない(即興的に作られる状況への対応が必須)。
  • 選手間で様々な要素が相互に作用することで、『1+1』が2ではなく、3にも10にもマイナス1にもなりうるにもかかわらず、過去の慣習(要素還元的な物の見方)にとらわれ、1+1=2として扱ってきた。つまり、ある物事の構成要素をa、b、cに分解して、ひとつひとつ説明すれば全体が理解できると思われてきたが、実際は、その全体は”abcの総和”とは別物。よって、パーツから出発して全体に至るのではなく、全体から出発しパーツに目を向ける。戦術もメソッドも当然変わる。
  • 人間の自然な学習プロセスは、経験、とりわけ失敗とそれに基づく反応としての自己組織化から成り立つ。個人の場合、経験に基づいて内面化された振る舞いが反射的に出る。無意識下での反射に要する時間は0.1秒。それを認知するまでに0.5秒。如何にして無意識化でプレーするかがポイント。練習ではミスを自発的に捉え、その解決を反射として無意識化で発現させる。
  • ボールの位置と状況こそが、その瞬間の22人の振る舞いを決定づける。
  • 数的優位、位置的優位、質的優位に加え、関係性的有利(相手の意図や感情の共有の優位性)、機能的優位(関係性的優位による優位性を自覚することで生まれる優位性)という上位概念。